人生は、一見まったく異なる道を通っていても、思いがけないところで一つの物語になることがある。
2025年8月、「ザ・ノンフィクション」に登場したプロレスラー・エチカ・ミヤビさんの歩みは、まさにその象徴だ。彼女の生き様は、スポーツ、ジェンダー、自分自身との向き合い、そして“希望”に満ちている。
◆ プロフィール概要|異名は「進撃の超新星」
- リングネーム:エチカ・ミヤビ
- 本名:非公開
- 生年月日:2001年3月25日(24歳)
- 出身地:神奈川県小田原市
- 所属団体:P.P.P.TOKYO
- 身長・体重:178cm/73kg
- デビュー:2022年9月14日(対 世羅りさ戦)
- ニックネーム:「進撃の超新星」
この“新星”は、ただのキャッチコピーではなく、彼女自身の再生と挑戦を象徴している。
◆ 幼少期〜中学時代:野球少女? いや、少年としての葛藤
小学生時代、ミヤビさんはソフトボールを始め、運動の楽しさに目覚める。中学では軟式野球部に所属し、日焼けしたグラウンドを駆け回る日々を送った。
だが同時に、心のどこかで違和感を抱えていたという。
「仮面ライダー」より「ディズニープリンセス」、
野球のユニフォームより、ふわっと揺れるワンピースに憧れを抱いていた。
この「好き」と「期待される姿」とのズレこそ、後の大きな決断の伏線だったのかもしれない。
◆ 高校時代:最速140km/h投球の“元高校球児”が柔道へ転身
高校では硬式野球部に所属。
ピッチャーとして最速136~140km/hという驚異のスピードボールを誇り、チームのエース候補として注目された。
しかし、心の葛藤が限界に達し、1年で野球部を辞める。
その後、柔道部に転部し、黒帯二段を取得。まるで“方向転換”のように見えるが、この経験が後のプロレスラー人生につながる大きな伏線となった。
スポーツの世界に身を置きながらも、「自分とは何者なのか」と問い続けていた10代だった。
◆ 大学進学とコロナ禍がくれた“内省”の時間
高校卒業後、大学へ進学。2年生までは男子学生として生活していたという。
しかし、2020年から始まったコロナ禍により、授業はリモート中心に。
一人きりで過ごす時間が増えるなかで、これまで見て見ぬふりをしていた“心の声”が、彼女の中で強くなっていく。
「私は、本当は女性として生きたい。」
この想いを無視することはもうできなかった。
◆ 性別適合手術への決断と“休学”という選択
自分らしく生きるにはどうしたらいいか──その問いに対して彼女が出した答えは、性別適合手術だった。
大学を休学し、資金を貯めるためにキャバクラやバーで深夜まで働き、わずかな睡眠時間で日々を過ごす。
時には「死にたい」と思うほど追い詰められながらも、目指す未来だけは諦めなかった。
タイで手術を受ける決断をした時、彼女の背中を押したのは、母と祖母だった。
◆ オーストラリア短期留学がくれた“自由の空気”
ミヤビさんは、手術前に半年間の留学を経験する。
行き先は自由と多様性の象徴とも言えるオーストラリア。
「男として行ったけど、男女共同の寮では“好きにしなよ”って言われた」
その一言に、どれだけ心が救われたことだろう。
この時期に語学力も身につけ、後に英会話講師としても活躍するほどに。
◆ “筋肉女子バー”からプロレスへ|ちゃんよたとの運命の出会い
手術費用を貯めるために応募したのが、「筋肉女子バー」。
ニューハーフであることを隠さず面接に挑んだ彼女を受け入れてくれたのが、同僚であり、現役プロレスラーのちゃんよた選手だった。
その体格と根性を見込まれ、P.P.P.TOKYOに誘われることに。
こうして、リングという新たなステージが、彼女の人生に現れる。
◆ プロレスデビューと“新たな自分”との対話
2022年9月14日、新宿FACEにてプロレスデビュー。対戦相手は世羅りさ選手。
もちろん勝利は掴めなかったが、そこにあったのは“リングに立つ自分”への誇りだった。
2024年1月には、タイでの性別適合手術を実施。半年の休養を経て、同年秋にはリングに復帰。
「身体だけじゃない、自分の“生き様”も変えられる」と証明する姿だった。
◆ 多才なスキルで“多様性の象徴”に
- 語学力:日本語・英語・フランス語のトリリンガル
- 趣味・特技:アニメ鑑賞、カポエイラ、ドロップキック
- 副業:英会話講師、ホステス業なども経験
- ニックネーム:「進撃の超新星」
リングの上ではパワフルに、リングを降りれば“等身大の若者”としてSNSでも発信を続ける彼女。
その自然体こそ、共感を呼ぶ理由なのだろう。
◆ エチカ・ミヤビが教えてくれる「自分らしさ」
エチカ・ミヤビさんの物語は、ただの“特殊な人の話”ではない。
誰もが多かれ少なかれ「こうありたい自分」と「こう見られるべき姿」の狭間でもがいている。
彼女の姿は、そんな不安や矛盾に一石を投じるようにまっすぐだ。
「私は私でいいんだ」
その言葉に救われる人は、きっとこれからも増えていく。
◆ 最後に:人生の“リング”に立ち続けるすべての人へ
エチカ・ミヤビさんの生き様は、スポーツ、ジェンダー、文化を越えて“自己実現”という普遍的テーマに通じている。
どんな形であれ、自分の人生に正面から向き合う人間は美しい。
リングの上でも、日常の中でも、それは変わらない。
彼女はまさに、「進撃の超新星」──闇を照らす光であり、次の時代への希望だ。
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