2016年に起きた「小金井ストーカー刺傷事件」は、日本中に衝撃を与えました。当時、シンガーソングライターとして活動していた冨田真由さんが、ライブ会場の前で執拗なストーカーによって複数回刺され、生死の境をさまよいました。
あれから約9年が経った2025年現在。冨田さんの体と心には、今もなお深い爪痕が残されています。本記事では、事件の影響から現在の生活、そして冨田さんが社会に向けて発信した想いについてまとめています。
■ 刺された箇所と負った外傷
事件が発生したのは、2016年5月21日。ライブ直前にファンの男に襲われ、冨田さんは顔・首・胸など約20か所以上を刺される重傷を負いました。犯人は以前からSNSなどで執拗にメッセージを送り付けるなどの行為をしており、事件前にも警察へ相談していたものの、「切迫性がない」として対応は後手に回っていたことが後に問題視されました。
冨田さんの命は奇跡的に助かりましたが、体には大きな後遺症が残されました。
■ 視力への影響:片目に視界の欠損
冨田さんは事件で左目の視界に障害が残っており、視野の一部が欠けています。文字の読み取りが難しくなるため、本を読んだり、資料を確認したりする際に苦労が伴っているとのこと。
また、人とのすれ違いの際にぶつかることも多く、日常の移動にも不安が付きまとうそうです。健常者であれば当たり前のようにこなせる日常動作が、冨田さんにとってはリスクと恐怖の連続となっています。
■ 発声と食事への支障:口腔まわりの麻痺
口の周辺に負った神経損傷により、冨田さんは咀嚼や発声が難しい状態が続いています。シンガーとして活動していた彼女にとって、歌うという行為自体が困難になってしまった事実は、計り知れない苦悩だったはずです。
食事も制限が多く、飲み込みにくいものや噛み切れない食材は避けざるを得ません。何気ない「ご飯を食べる」という行為にすら、日々の努力と苦労が伴っているのです。
■ 下半身への影響:歩行バランスに支障
また、右足の親指周辺にも神経損傷があり、歩行時のバランス感覚に障害が残っています。段差を越えること、長距離を歩くこと、満員電車に乗ること──すべてが事故のリスクに直結する日常となっており、生活範囲は著しく制限されています。
■ PTSDと精神的ダメージ:今も続く恐怖
事件の記憶は冨田さんの心にも深く刻まれており、**心的外傷後ストレス障害(PTSD)**に悩まされています。外出先で知らない人がポケットに手を入れるだけで、「また刺されるのでは」と過去の記憶が蘇り、息苦しさや過呼吸を引き起こすこともあるそうです。
また、日常生活の中でもトリガーとなる場面が多く、ふとした瞬間に過去がフラッシュバックしてくるとも語られています。
■ 家族の支えと“生活の工夫”
そんな中でも、冨田さんは家族や周囲の支援を受けながら、慎重に日常を取り戻す努力を続けています。
- 外出時にはなるべく家族と同行
- 人通りの少ない時間帯を選んで移動
- ストレスを感じる場面を事前に避ける工夫
- 一部、SNSも制限しながら活用
完全な社会復帰とは言い難い状況ではありますが、少しずつ自分のペースで生活の再構築を進めていることがうかがえます。
■ 再発防止のための民事裁判と証言
冨田さんは2019年、警視庁の不十分な対応に対して、東京都を相手取った損害賠償請求訴訟を起こしました。これは単なる被害者個人の闘いではなく、今後のストーカー被害者を守るための社会的アクションでもありました。
そして2024年7月、ついに判決が下され、「勝訴的和解」ともいえる内容に至りました。
彼女はこの裁判で、自ら証言台に立ち、
「誰もストーカーに苦しむことのない社会になってほしい」
と語りました。
■ 今後の課題:警察と制度の見直し
この事件を通じて、日本のストーカー対策や警察の対応、SNSによるリスク管理など、さまざまな制度の不備が明らかになりました。
- SNSによる接近のエスカレートに対する法整備
- 初期対応における警察官の教育と判断基準の改善
- 被害者支援のための民間支援機構との連携
2025年現在、制度上の改善は一部行われたものの、抜本的な改革には至っていないという声もあります。
■ 冨田真由さんが伝えたい想い
冨田さんは、自分が受けた痛みや経験をもとに、「このような事件が二度と起きてほしくない」という強い信念のもと行動しています。
「当時の私は、ただ歌を歌っていたかっただけ」
という彼女の一言には、かけがえのない日常を理不尽に奪われた悲しみと、今後の社会に対する深いメッセージが込められています。
■ まとめ:9年を経ても癒えない傷と、進み続ける意思
冨田真由さんは、事件から9年が経った今もなお、身体と心に大きな傷を抱えながら生きています。
- 左目の視野障害
- 口元の神経損傷による発声・食事困難
- 足の麻痺による歩行制限
- PTSDによる精神的フラッシュバック
- 社会への不信感と警察への疑問
それでも、彼女は前を向き続けています。「もう誰も同じ思いをしなくていいように」と、声を上げ、法廷に立ち、メッセージを発信し続けている姿は、多くの人に勇気を与えています。
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